
「iDeCoが改悪されるって本当?」
「退職金の手取りが減るって聞いたけど、自分も対象なの?」
最近、そんなニュースを目にして、老後資金の計画に不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
結論からお伝えします。今回のiDeCoの税制改正は、すべての人に影響するわけではありません。影響が及ぶのは「ある特定の条件」でiDeCoと会社の退職金を受け取る方々です。
この記事では、iDeCoが改悪すると騒がれているのはどういうことなのか、その元凶である『10年ルール』について、以下の点を徹底的に解説します。
- 何がどう変わるのか?(10年ルールの正体)
- 【簡単チェック】iDeCo「10年ルール」の影響を受ける人・受けない人
- 具体的にいくら損するの? 衝撃の税額シミュレーション
- まだ間に合う! 税金の負担を軽くするための5つの対策
この記事を最後まで読めば、今回の改正の全体像を正しく理解し、ご自身の状況に合わせた最適なアクションプランを見つけられるはずです。
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iDeCoと退職金の「退職所得控除」をおさらい
今回の「10年ルール」を理解するために、まずはiDeCoを一時金で受け取る際の税金の仕組みについて簡単におさらいしましょう。
iDeCoを一時金で受け取ると、そのお金は「退職所得」という扱いになります。この退職所得には、他の所得(給与など)とは比べ物にならないほど強力な税制優遇があります。
- 分離課税: 他の所得と合算せず、退職所得だけで税額を計算するため税率が低く抑えられやすい。
- 2分の1課税: 退職所得控除を差し引いた後の金額を、さらに半分にしてから税率をかける。
- 退職所得控除: 税金計算の元となる金額から、ごっそりと差し引ける非課税枠。
この中で最も重要なのが「退職所得控除」です。控除額はiDeCoの加入期間(会社員の場合は勤続年数)に応じて、以下の式で計算されます。
- 加入期間が20年以下の場合: 40万円×加入年数 (※80万円に満たない場合は80万円)
- 加入期間が20年超の場合: 800万円+70万円×(加入年数−20年)
例えば、iDeCoに35年間加入した場合の控除額は、800万円+70万円×(35年−20年)=1,850万円にもなります。つまり、一時金が1,850万円以下であれば、税金は1円もかからないのです。
この強力な非課税枠があるからこそ、「いつ、どのように受け取るか」という出口戦略が非常に重要になります。
何が変わる?「5年ルール」から「10年ルール」へ
それでは本題です。今回の改正で、一体何が変わるのでしょうか。
改正前:おトクな「5年ルール」とは?
これまでの制度では、ちょっとした「裏ワザ」が存在しました。それは、iDeCoの一時金を先に受け取り、その5年超後に会社の退職一時金を受け取ると、退職所得控除の計算がリセットされるというものです。
控除額リセットのための待機期間
会社の勤続年数に応じた控除額を、再びフル活用!
これにより、iDeCoと会社の退職金、それぞれで巨大な非課税枠をダブルで活用でき、税金を大幅に圧縮することが可能でした。
改正後:新たな「10年ルール」とは?
2025年度の税制改正で、この控除がリセットされるまでの期間が5年から「10年」へと延長されます。これが『iDeCo 改悪 10年ルール』の正体です。
<控除額がリセットされない短期間
iDeCoで使った加入期間と重複する分、
控除額が減ってしまう!
この改正は、2026年1月1日以降に支払われる会社の退職金に適用されます(その前に受け取るiDeCoも同日以降に支払われた場合)。
なぜ変わるの?「改悪」と言われる改正に踏み切った、本当の理由
「iDeCoのメリットが減るなんて、ただの増税じゃないの?」 「どうしてわざわざ、こんな分かりにくいルールに変更するの?」
今回の改正について、多くの方がそうした疑問や不満を感じているかもしれません。しかし、財務省が掲げる「課税の公平性」という理由を深掘りすると、今回の変更が単なる「改悪」ではない、別の側面が見えてきます。
ポイント1:本来の「退職所得控除」の趣旨とは?
まず、大前提として「退職所得控除」という制度が、どのような考え方で作られているかを理解することが重要です。
退職金は、単なる給料の後払いではありません。「長年の勤務に対する功労への報い(ご褒美)」という特別な意味合いを持っています。そのため、税制上も非常に手厚く優遇されているのです。
この制度の根底にあるのは、「一つの勤務期間(一つの功労)に対しては、一つの手厚い控除を適用する」という基本原則です。
ポイント2:「5年ルール」が”不公平な抜け道”と見なされたワケ
この基本原則に照らし合わせたとき、従来の「5年ルール」は、一部の人にとって「税制上の抜け道」として機能してしまっていました。ここに「不公平」が生まれていたのです。
具体的に、どのような不公平があったのでしょうか?
つまり、本人の努力や功績とは関係なく、「勤務先の制度」や「受け取りタイミングを操作できる立場にあるか」という要因だけで、手取り額に数百万円もの差が生まれてしまう。この状況が、まさに「課税の公平性」の観点から問題視されたのです。
ポイント3:終身雇用から「多様な働き方」の時代へ
この改正は、もう一つ大きな時代の変化と関連しています。
もともと日本の退職金税制は、「一つの会社で定年まで勤め上げ、退職金は人生で一度だけ受け取る」という終身雇用を前提に設計されていました。
しかし、現代では転職は当たり前になり、複数の会社から退職金を受け取ったり、iDeCoや企業型DCなど、様々な形で退職給付を受け取ったりするのが普通になっています。
政府は、こうした働き方の多様化に対応するため、「どんな働き方、どんな辞め方、どんな受け取り方をしても、税制上の有利・不利が生まれない『中立的な』制度」への見直しを進めています。
今回の「10年ルール」への変更は、この大きな流れの中の重要な一歩です。特定の受け取り方だけが極端に有利になるという”歪み”を是正し、制度を現代の働き方に適合させるための、必然的な調整だったと言えるでしょう。
【簡単チェック】iDeCo「10年ルール」の影響を受ける人・受けない人
「じゃあ、結局自分は対象なの?」という疑問にストレートにお答えします。ご自身の状況がどちらに当てはまるか、チェックしてみてください。
(自営業者、フリーランス、退職金制度のない企業にお勤めの方など)
(今回のルールは「一時金」を立て続けに受け取るケースが対象)
(例:60歳でiDeCoを受け取り、70歳で会社の退職金を受け取るなど)
(例:勤続35年の退職所得控除額は1,850万円。合計がこの範囲内であれば影響はほとんどありません)
ご自身の状況はどちらでしたでしょうか? もし「影響を受ける可能性が高い」に該当したとしても、これから解説する対策を講じることで、税負担を抑えることが可能です。
なぜ「10年ルール」になると手取りが減る?税額計算を徹底解剖
「10年ルール」に該当すると、具体的にどれくらい税負担が増えるのでしょうか。多くの方が疑問に思うこの部分を、計算のステップを一つひとつ追いながら、じっくり見ていきましょう。
まずはモデルケースの確認
計算の前提となるモデルケースを再確認します。
制度 | 受給年齢 | 加入・勤続期間 | 一時金額 | 備考 |
---|---|---|---|---|
iDeCo | 60歳 | 25年 | 1,200万円 | 個人型確定拠出年金 |
会社退職金 | 65歳 | 35年 | 1,800万円 | 企業退職金制度 |
📊 受給スケジュール概要
- 60歳時点:iDeCo一時金 1,200万円を受給
- 65歳時点:会社退職金 1,800万円を受給
- 合計受給額:3,000万円(5年間での分散受給)
現行制度(5年ルール適用時)の計算
まずは比較のために、現在のルールで計算します。ポイントは、iDeCoと会社の退職金の間に5年以上の期間が空いているため、それぞれの控除額をダブルで満額使える点です。
計算項目 | 計算式・詳細 | 金額 |
---|---|---|
受給金額 | 加入期間25年分 | 1,200万円 |
退職所得控除額 | 800万円 + 70万円 × (25年 − 20年) | 1,150万円 |
課税対象額 | (1,200万円 − 1,150万円) ÷ 2 ※2分の1課税適用 | 25万円 |
税額 | 所得税・住民税など | 約2.5万円 |
計算項目 | 計算式・詳細 | 金額 |
---|---|---|
受給金額 | 勤続35年分 | 1,800万円 |
退職所得控除額 | 800万円 + 70万円 × (35年 − 20年) | 1,850万円 |
課税対象額 | 1,800万円 − 1,850万円 = −50万円 ※控除額が受給額を上回る | 0円 |
税額 | 課税対象額がないため | 0円 |
総受給額3,000万円に対して、税負担はわずか0.08%!
🎯 税制優遇のポイント
- 退職所得控除:長期加入・勤続により控除額が大幅増加
- 2分の1課税:iDeCoの課税対象額がさらに半減
- 分散受給:60歳と65歳に分けることで控除を最大活用
- 実質税率:3,000万円に対してわずか0.08%の税負担
【ここからが本題】改正案(10年ルール適用時)の計算
次に、新しい「10年ルール」が適用された場合の計算です。iDeCoと会社の退職金の受け取り間隔が5年(10年以内)のため、控除額のリセットが使えません。
項目 | 詳細 | 金額 |
---|---|---|
税額 | 従来通りの計算 | 約2.5万円 |
本来の控除額 (35年分) | 800万円 + 70万円 × (35年 − 20年) | 1,850万円 |
iDeCo控除額 (25年分) | 800万円 + 70万円 × (25年 − 20年) | 1,150万円 |
調整後控除額 | 1,850万円 − 1,150万円 ※重複期間調整により大幅減少 | 700万円 |
退職金額 | 会社退職金 | 1,800万円 |
課税対象額 | (1,800万円 − 700万円) ÷ 2 ※2分の1課税適用 | 550万円 |
所得税 | 550万円 × 20% − 427,500円 | 672,500円 |
復興特別所得税 | 672,500円 × 2.1% | 14,122円 |
住民税 | 550万円 × 10% | 550,000円 |
会社退職金 合計税額 | 所得税 + 復興特別所得税 + 住民税 | 1,236,622円 |
控除額がリセットされていた時代
重複期間調整により大幅増税
改正前の約50倍の税負担!
🎯 税制改正の重要ポイント
- 重複期間調整:先に受け取ったiDeCoの控除期間分が後の退職金控除から差し引かれる
- 控除額の大幅減少:1,850万円 → 700万円(約62%減少)
- 課税対象額の増加:0円 → 550万円
- 実質税率上昇:0.08% → 4.22%(約53倍)
結論:手取り額の差は歴然
制度 | 現行制度 (5年ルール) | 改正案 (10年ルール) |
---|---|---|
合計税額 | 約2.5万円 | 約126.5万円 |
手取り額の差 | 約124万円の減少 |
現行制度: 約2.5万円の税負担(ほぼ非課税)
改正案: 約126.5万円の税負担(大幅増税)
差額: 約124万円の手取り減少
税負担が約50倍に増加します。同じ受給方法でも制度改正により大きな影響を受けるため、退職金受給戦略の見直しが必要です。
このように、計算のステップを分解すると、「控除額の重複調整」が税額にいかに大きなインパクトを与えるかがお分かりいただけたかと思います。これは決して無視できない金額であり、該当する可能性がある方は事前の対策が不可欠です。
まだ間に合う!税負担を激減させる5つの出口戦略
「そんなに税金が増えるのは困る!」という方、ご安心ください。今から準備できる対策はあります。
対策内容 | メリット | デメリット・注意点 | おすすめの方・アクションプラン |
---|---|---|---|
対策1 iDeCoを「年金形式」で受け取る | 📈 税制上のメリット • 雑所得として扱われ「10年ルール」の適用外• 公的年金等控除が使える • 会社の退職金への影響なし | ⚠️ 注意すべきポイント • 社会保険料の増加リスク• 国民健康保険料・介護保険料が上がる可能性 • 手取りの逆転現象もあり得る | 👥 こんな方におすすめ • 会社の退職金が非常に多い方• 公的年金収入が少ない方 • 公的年金等控除に余裕がある方 🎯 アクションプラン ねんきん定期便で公的年金見込額を確認→年収試算→自治体サイトで国民健康保険料をシミュレーション |
対策2 「一時金」と「年金」を組み合わせる(併用受給) | 📈 効率的な活用 • 退職所得控除を無駄なく使い切れる• 控除枠の余裕分を一時金で非課税受け取り • 残りを年金で受け取り可能 | ⚠️ 制約・注意点 • 金融機関により対応が異なる• 手続きが複雑になる可能性 • 事前確認が必須 | 👥 こんな方におすすめ • 退職所得控除の枠が余る方• 計画的に非課税枠を最大化したい方 • 柔軟な受け取りを希望する方 🎯 アクションプラン iDeCo口座の金融機関に「併用受給」対応の可否を確認 |
対策3 受け取りタイミングを「10年以上」空ける | 📈 最大の節税効果 • 両方で退職所得控除を満額利用可能• 60歳でiDeCo、70歳以降で退職金 • ほぼ非課税で受け取り可能 | ⚠️ 実現困難な場合が多い • 退職金支給時期は就業規則で決定• 個人都合での変更は困難 • 会社の経営状況変化リスク • 10年間の資金計画が必要 | 👥 こんな方におすすめ • 経営者・役員で退職時期をコントロールできる方• 70歳定年延長制度がある方 • 再雇用制度で柔軟な調整が可能な方 🎯 アクションプラン 勤務先の退職金規程を確認し、支給時期の変更可能性を調査 |
対策4 【重要知識】「会社の退職金を先に受け取る」場合の19年ルール | 📈 順序変更による対応 • 10年ルールを避ける一つの方法• 受け取り順序の選択肢を提供 | ⚠️ より厳しい制約 • 19年以内だとiDeCoの退職所得控除が調整される• 控除リセットには20年以上必要 • 10年ルールより厳しい条件 • 安易な順序変更は危険 | 👥 重要な知識として • 順序変更を検討する全ての方• 長期的なライフプランを立てる方 • 総合的な戦略を考える方 🎯 アクションプラン ライフプラン(働く年数・iDeCo受け取り時期)を基に受け取り順序の影響を慎重に比較検討 |
対策5 「新NISA」など他の制度を併用する | 📈 柔軟性の向上 • 出口が超シンプル(運用益完全非課税)• いつでも引き出し可能 • 複雑な控除計算不要 • iDeCoの「調整弁」として活用 | ⚠️ 考慮事項 • 所得控除メリットはなし• 投資リスクは存在 • 両制度の特徴理解が必要 | 👥 こんな方におすすめ • iDeCoと併用で最大効果を求める方• 柔軟な資産活用を希望する方 • 余裕資金のある方 • 現代的な資産形成を目指す方 🎯 アクションプラン iDeCoで所得控除メリットを最大化しつつ、余裕資金で新NISA積立投資を開始。両輪での資産形成を実現 |
💡 まとめ
2026年からの税制改正に備え、今から最適な出口戦略を準備することが重要です。ご自身の状況(退職金額、働く年数、ライフプラン)に応じて、これらの対策を組み合わせることで、税負担を効果的にコントロールできます。
重要:具体的な判断については、税理士やファイナンシャルプランナーなどの専門家にご相談されることをお勧めします。
「改悪」だけじゃない!iDeCoの「改善」ポイント
ここまで「改悪」という側面を解説してきましたが、実はiDeCo制度全体としては、同時にポジティブな「改善」も進んでいます。
朗報 | 改正内容 | メリット・詳細 |
---|---|---|
朗報① | 2025年〜 実施 掛金の上限額が大幅アップ! | 掛金上限が引き上げ 多くの加入者で節税メリット(所得控除)がさらに拡大 現役時代の税制優遇で運用可能 より多くの資産を🎯 特に嬉しい方 • 現在の掛金上限に達している方• 高所得で節税効果を最大化したい方 • より積極的な資産形成を目指す方 |
朗報② | 実施済み 加入可能年齢が70歳未満に引き上げ! | 長期間の資産形成が可能に 継続的な積立投資を実現 働きながらiDeCoの恩恵を受けられる より多くの人が🎯 特に嬉しい方 • 60歳以降も働く予定のある方• 定年延長・再雇用制度を利用する方 • 老後資金をより充実させたい方 • 長期的な資産運用を重視する方 |
朗報③ | 順次実施 マッチング拠出のルールが緩和! | 掛金上乗せがより柔軟に 企業型DC加入者のルール緩和により使いやすさが向上 個人の積立を効率的に併用 企業の制度と🎯 特に嬉しい方 • 企業型確定拠出年金に加入している方• マッチング拠出を検討している方 • 企業制度と個人積立を両立したい方 • より効率的な資産形成を目指す方 |
🌟 これらの改正で、iDeCoはより魅力的な制度に!
掛金上限引き上げで
所得控除メリット拡大
70歳未満まで加入
より長期の資産形成
マッチング拠出緩和で
より柔軟な活用が可能
これらの朗報を活かして、より効果的な老後資金準備を始めましょう!
つまり、「入口(掛金)と途中(運用)のメリットは拡大し、出口(受取時)のルールが一部厳格化される」というのが今回の改正の全体像です。
まとめ:iDeCo「10年ルール」を正しく理解し、最適な準備を
最後に、今回の記事の要点をまとめます。
- iDeCoの10年ルールとは、iDeCo一時金を先に受け取り、10年以内に会社の退職金を受け取る場合に、退職所得控除が調整されるルール。
- 影響を受ける人は限定的だが、該当すると税負担が大幅に増える可能性がある。
- 対策として「年金受け取り」「受け取りタイミングの調整」などが有効。
- iDeCoは「改悪」だけでなく、掛金増額などの「改善」もあり、総合的に見れば依然として強力な老後資金作りの制度。
今回の「iDeCo改悪」報道は、一見すると不安を煽るものかもしれません。しかし、その内容を正しく理解すれば、過度に恐れる必要はありません。
大切なのは、ご自身の退職金制度や働き方のプランを確認し、「自分は影響を受けるのか」「受けるならどう対策するか」を今のうちから考えておくことです。必要であれば、金融機関の担当者やファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談し、あなたにとって最適な出口戦略を立てていきましょう。

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