
今回紹介するのは直木賞受賞作一穂ミチさんの『ツミデミック』
『ツミデミック』は、コロナ禍が生んだ人間の心のひずみや罪をテーマにした短編集です。
コロナ渦では、それぞれ様々な経験をされたことと思いますし、それこそ人生がごろっと変わることになった方もおられるでしょう。
そんな今現在の社会で現実に起こり得るかのようなリアルな設定と、不思議で切ないエピソードが交差する6つの物語が詰まっています。
これから、各短編について感じたことやあらすじをご紹介していきます。
読み応えのある一冊ですので、ぜひ最後まで楽しんでください。
僕はAudibleで『ツミデミック』を聴いたのですが、短編集なのでちょっとした隙間時間にピッタリで、わざわざ読書の時間を設けなくても楽しく聴けちゃうのが最高です。
30日間は無料でAudibleの聴く読書を体験できるので、この本も無料で聴けますよ。気に入らなければ退会も簡単にできます。
ぜひ一度Audibleでの聴く読書という新しい読書体験を味わってみて下さい。
違う羽の鳥
コロナ禍で人気が落ちた繁華街で、優斗は客引きのバイトをして生計を立てていました。ある日、彼の前に現れた女性「井上なぎさ」は、中学時代の友人と同じ名前を持ちつつも、どこか異なる雰囲気をまとっています。実は、彼が知っていた井上なぎさはすでに事故で亡くなっているはず…。一体彼女は誰なのか、そしてなぜ再び彼の前に現れたのか。この物語は、失われたはずの過去と再会する奇妙な経験を描きつつ、読者に大きな謎を投げかけます。
優斗は中学時代のなぎさとの会話の中でのSOSに気づくことができなかった罪の気持ちが心の中に残っていて、「井上なぎさ」を名乗る女性の語る過去の真実を知ることで、罪の意識が重くのしかかっていきます。
誰にでもあるであろう過去にあった後悔や罪悪感が、いかに人の意識に潜在し人生に影響を及ぼすのか。
「あの時の自分の選択はただしかったのか?」
そんな想いを呼び起こされるように感じました。思い出したくないことだけど。
ロマンス
百合は、美容師として働く夫から「早く仕事に戻ってほしい」と急かされる日々を送っていました。そんなとき、隣人から紹介されたデリバリーサービス「ミートデリ」を試してみることに。このサービスを利用するうちに、百合は担当の配達員に心惹かれ、注文を繰り返すようになります。しかし、ほんの些細な恋心が、彼女の生活に思わぬ影響を与え始めます。
けっして経済的に余裕のない状態、そして幼い子の育児、うまくコミュニケーションがとれない夫婦関係、自分の現状に対する不満が百々を精神的に蝕んでいました。
そんな中、偶然街ですれ違った激イケメンのデリバリースタッフ。
もともと過去にアプリゲームに親のお金で大金を課金してしまう前科があるほど依存傾向がある百々の性格。
ダメなことと頭ではわかっていても、もう一度あのイケメンスタッフに会いたい。会えればゲームクリア!とどんどん泥沼にはまっていってしまいます。
この気持ち、現実逃避のためにスマホゲームに熱中したり、ギャンブルにはまる心理状態をよく表現していると感じます。
そして最後は思ってもみなかった展開に。
心の病は本当に恐ろしいと思うと同時に、自分ではどうしようもないことは、周りに頼ることの重要さを再確認しました。
けっして楽しい話ではないですが、個人的に一番心に残るインパクトのある話です。
憐光
松本唯は、15年前に事故で亡くなり幽霊となった存在。
唯の遺骨が豪雨の中で発見され、彼の親友であるつばさと元担任・杉田が彼の故郷へと戻ります。
かつての高校を訪れる二人、幽霊として見守る唯の目の前で二人の本性が、雨の日の事故の真相がゆっくりと明らかになっていく過程は、人の自己中心的な恐ろしさをまざまざと見せつけられます。
人の心の奥底にある恐ろしさ、自分の保身のためなら殺人さえいとわない凶暴さを表現しているが、その反対に全く関係のない他人のために供養し悲しみの気持ちを向けてくれる人もいる。
また、幽霊である唯を、恨み辛みを感じさせない、どこか俯瞰した姿で表現しているところに、暗いストーリーの中にユーモアを感じられて楽しめます。
人の本心なんてわからない、信じてはいけないとは言い切れない、温かい気持ちも残してくる、そんな一遍です。
特別縁故者
卜部恭一とその息子・隼が手にした古い一万円札が、この物語の引き金です。近所の家の佐竹のタンス預金に気付いた恭一は、あわよくば遺産相続人として特別縁故者に慣れるのでは!と次第に彼に接近していきます。
佐竹との関係は徐々に深まり、恭一の心にも佐竹の遺産目当てという目論見も薄まってきた中で、妻の病気と借金が発覚。
わらをもすがる思いで佐竹に助けを求めるが、佐竹から罵倒と共に追い出される始末。
そんなある夜、双眼鏡を見ていた凖が、佐竹家に複数の人物が入っていくのを目撃。
不安に駆られた恭一は、急いで佐竹家に向かうが・・
家庭とお金にまつわるこの短編は、他人への期待や欲望がもたらす罪の影を鮮やかに描いています。
しかし、恭一の佐竹との関わりの中での変化が、辛い状況の中でも人との関係性や行動することで状況を打開するできる希望と温かさを感じさせてくれます。
祝福の歌
達郎は、17歳の娘が妊娠したことで家族としての責任を強く感じています。
娘は産むの一点張り、ところが相手の男子生徒は自分の子供の確証が欲しいとDNA鑑定を要求。
不安と憤りの不穏な日々を送ります。
そんな中、実家の母の隣人である鈴香に対して母からの相談を受けます。
妊娠していて子供が産まれるはずだった鈴香の様子が不穏であると母が話すなか、母がマンションの階段から落ちる事件が発生。防犯カメラには鈴香の姿が記録されていました。
この事件がきっかけで、様子がおかしく、マンションの隣人から気味悪がられている鈴香には、実は妊娠に関して驚くべき秘密が。
しかし、驚くべき事実はこれだけには留まりません。
最後の最後に達郎にまつわるまさかの事実が発覚。
終盤は驚きの連続ですが、家族のつながり、愛や絆の大切さを綴った感動の一遍です。
さざなみドライブ
SNSで「死に仲間」としてつながった5人が、ドライブの途中で人生を語り合う異色の短編。
それぞれの境遇、なぜ死にたい気持ちに至ったかを語り合う間に、お互いに「そんなことで死ぬの?」と、他人にとっては自分の悩み、苦しみはなんてことないことだと思い知らされる。
そんな中、もう一度生きてみようと思い直した5人に待っていたものは・・・。
パンデミックで人生が一変した彼らが共有する「死」というテーマが、不安定な人間関係と結びつき、最後の決断を下す場面に深い感慨を与えられます。
今という時代ならではの影響で生まれた心の孤独や虚しさが、巧妙に浮かび上がる一遍です。
まとめ 読後の感想
コロナ禍で、日常がどこかギクシャクしたり、人との距離感が変わったり…。そんな時期に起こる「心の罪」をテーマにした短編集『ツミデミック』は、読んでいて共感したり、考えさせられたりと、なんとも不思議な読後感を残す本でした。
本のタイトルが示すように、「罪(ツミ)」と「パンデミック(デミック)」をかけ合わせたこの作品は、6つの短編から成り立っています。どの物語も、コロナ禍の特殊な状況を背景にしながらも、登場人物たちの人間らしい悩みや葛藤がリアルに描かれていて、読んでいるうちに「こういう気持ち、分かるなぁ」と思える部分がたくさんありました。
『ツミデミック』は、現代社会の背景を色濃く反映させながらも、読者の心を引き込むミステリアスでエモーショナルな物語を紡いでいます。今だからこそ刺さる人間模様を描いた6つの短編に、ぜひ一度触れてみてください。
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