
「遺族年金が5年で打ち切りになるって本当?」「今回の制度改正はいつから始まるの?」
2024年に成立した年金制度改革法により、日本の遺族年金制度が大きく変わります。施行はいつからなのか、そして最大の関心事である「5年で打ち切り」説は本当なのでしょうか。
この記事では、今回の遺族年金制度改正の全体像を、分かりやすく解説します。
この記事で分かることは以下の事です。
- 2028年4月から遺族厚生年金制度が大きく変わる。
- 60歳未満で子のいない人の遺族厚生年金は、原則5年間の支給になる。
- すでに受給中の人や、60歳以上で配偶者を亡くした人は影響を受けない。
- 5年間の支給期間中、年金額は現行の約1.3倍に増額される。
- これまで対象外だった年収850万円以上の人や男性も受給可能になる。
- 夫を亡くした40~65歳の妻への「中高齢寡婦加算」は段階的に廃止される。
それでは詳しく見ていきましょう。

障害年金の5年打ち切りは本当か!
今回の改正で最も世間の注目を集め、時に「改悪」とまで言われるのが、「遺族厚生年金の支給が5年で打ち切られる」という点です。
まず結論から申し上げると、この表現は半分正しく、半分は誤解を生むものです。
正確には、「特定の条件下で、これまでの終身支給が原則5年間の有期支給に変わる」のです。
では、この変更がどれほど大きなインパクトを持つのか。まずは具体的なシミュレーションでその衝撃度を直視してみましょう。
衝撃シミュレーション:生涯受給と5年有期で総額はこう変わる!
妻:42歳(子なし専業主婦)
給付要素 | 現行制度 (生涯給付) | 新制度 (5年有期給付) |
---|---|---|
💰 遺族厚生年金 (年額) | 約49万円 | 約64万円 (1.3倍に増額) |
👥 中高齢寡婦加算 (年額) | 約62万円 (42歳~65歳) | 0円 (廃止) |
📅 給付期間 | 42歳から 生涯 | 42歳から 5年間 |
💵 65歳までの 総受給額(試算) | 約2,566万円 | 約320万円 |
約2,246万円減少
現行制度と比較して大幅な給付削減となります
※試算は簡略化されたモデルであり、実際の金額は個々の条件により異なります。
このシミュレーションが示すのは、恐ろしいほどの金額差です。なぜこれほどの差が生まれるのでしょうか。理由は2つあります。
- 給付期間の圧倒的な短縮:65歳までの23年間、合計で110万円以上(遺族厚生年金+中高齢寡婦加算)を受け取れたものが、わずか5年間で約64万円の支給に限定されるため、当然ながら総額は激減します。
- 「中高齢寡婦加算」の廃止:現行制度の大きな支えであった、年間約62万円の加算がなくなる影響は絶大です。
この「5年」という期間設定に対しては、厳しい批判がなされています。特に、出産や育児、介護などを理由に自身のキャリアを中断・セーブしてきた配偶者(主に女性)が、夫の死後わずか5年で、十分な収入を得て経済的に自立するのはあまりに非現実的ではないか、という指摘です。
依然として存在する男女間の賃金格差や、一度キャリアを離れた中高年層の再就職の難しさという厳しい社会の現実を前に、制度が掲げる「経済的自立の促進」という理想と、個人の現実との間に大きな乖離がある。この点が、本改正が「改悪」と論じられる最大の根拠となっています。
ただし、このシミュレーションは改正の一側面を切り取ったものに過ぎません。改正の真の姿を理解するには、その全体像、すなわち「変革の五本柱」を総合的に把握することが不可欠です。
「変革の五本柱」で見る2028年改正の全貌
今回の制度改正は、単なる期間短縮だけではありません。社会構造の変化に対応するための、5つの大きな柱から成り立っています。それぞれを深く掘り下げてみましょう。
第一の柱:新原則「5年間の有期給付」
これが改正の核心部分です。配偶者の死亡時に60歳未満で、かつ18歳未満の子がいない遺族配偶者に対する遺族厚生年金は、原則として5年間の有期給付となります。
政府の公式な狙いは、遺族年金を「生涯の生活保障」から「経済的自立までの移行期間を支える支援」へと位置づけ直し、男女問わず就労による自立を促すことにあります。
昭和型の扶養モデルから、現代の共働き・個人単位の社会モデルへの転換を象徴する変更です。
第二の柱:緩和措置「有期給付加算」の創設
政府も期間短縮のインパクトは重く見ており、その打撃を緩和するための重要な「アメ」として、この加算を新設しました。
支給期間が5年に限定される代わりに、その5年間の年金額は手厚く増額されます。
具体的には、これまで「亡くなった方の老齢厚生年金の報酬比例部分 × 3/4」で計算されていたものが、「亡くなった方の老齢厚生年金の報酬比例部分 × 4/4(=満額)」で計算されるようになります。これにより、受け取れる5年間の年金額は現行の約1.3倍になります。
先のシミュレーションでも年額が49万円から64万円に増えているのはこのためです。これは生活再建のための初期費用を厚くするという、政策的な意図の表れです。
第三の柱:長期的再調整「死亡時分割」の創設
これは非常に画期的で、将来の生活設計に大きな影響を与える可能性のある制度です。離婚時の年金分割制度を参考に、「死亡」を事由として年金記録を分割します。
何が分割されるのか? | 現金ではありません 分割されるのは「厚生年金の加入記録」です 具体的には:
|
どういう仕組みか? | 夫婦の婚姻期間中に、亡くなった配偶者が納めていた厚生年金記録の最大2分の1を、生存配偶者自身の年金記録に付け加えることができます 📝 手続きのポイント: • 婚姻期間中の記録のみが対象 • 最大50%まで分割可能 • 生存配偶者の記録に合算される |
どんな効果があるのか? | 即時の現金給付はありません しかし、付け加えられた記録は、生存配偶者が将来受け取る自分自身の「老齢厚生年金」を増額させます 🔮 将来への効果: • 老齢厚生年金の受給額が増加 • 長期的な年金収入の安定化 • 老後の経済基盤が強化される |
(現金ではない)
(婚姻期間中の記録)
受給額が増額
配偶者の年金記録を自分の記録に加えることで、
将来の年金受給額を増やすことができる制度です。
特に、専業主婦(主夫)などで自身の厚生年金加入期間が短い方にとっては、将来の年金額を底上げする効果が期待できます。
第四の柱:受給資格の拡大「年収850万円要件」の撤廃
現行制度では、遺族の年収が850万円(所得655.5万円)以上あると、遺族厚生年金は支給停止となります。これが、5年間の有期給付については完全に撤廃されます。
これは、高所得の共働き世帯(パワーカップルなど)にとって大きなメリットです。これまでは、例えば妻が高収入の場合、夫が亡くなっても遺族年金は一切受け取れませんでした。夫が多額の厚生年金保険料を納めていたにもかかわらず、です。
この不公平感が解消され、所得にかかわらず、配偶者の死というリスクに対して全ての厚生年金加入者が保険の恩恵を受けられるようになります。
第五の柱:過去制度の段階的終了「中高齢寡婦加算」の廃止
男女中立な制度への移行に伴い、女性のみを対象としていた「中高齢寡婦加算」は、新規の受給者から段階的に廃止されます。
この加算は、子が成長して遺族基礎年金が終わった後、自身の老齢基礎年金が始まる65歳までの間の、収入が途絶えがちな「所得の空白期間」を埋めるという重要な役割を果たしてきました。しかし、「女性のみ」を対象とする点が男女平等の観点から問題視され、廃止の対象となりました。
これは、制度が特定の家族モデル(専業主婦のいる家庭)を保護する時代から、個人を単位とする時代へと完全に移行することを象徴しています。
【新旧制度まとめ】制度改正による変更点の詳細比較
変更項目 | 現行制度 | 新制度 |
---|---|---|
給付期間 (子のない60歳未満の配偶者) | 👩 妻: • 30歳以上 → 終身 • 30歳未満 → 5年 👨 夫: • 55歳未満は対象外 | 👫 男女共通 原則5年の有期給付 (性別による差を撤廃) |
給付額 (5年有期給付期間中) | 死亡者の老齢厚生年金の 3/4 (通常の計算方法) | 現行算定額の約1.3倍 (有期給付加算により増額) 💡 短期間だが高額に |
男性の受給資格 (子のない場合) | 55歳未満は対象外 (男性への制限が厳しい) | 60歳未満でも受給可能 (5年有期) 👨 男性の受給機会が拡大 |
所得要件 | 年収850万円未満 (所得制限あり) | 撤廃 (5年有期給付について) 💼 高所得者も受給可能 |
寡婦特有の加算 (中高齢寡婦加算) | 40歳~65歳の妻に支給 (年額約62万円) 👩 長期的な生活保障 | 新規発生分は 段階的に廃止 ⚠️ 女性への長期保障が削減 |
- 💰 給付額が約1.3倍に増額
- 👨 男性の受給資格が拡大
- 💼 所得要件が撤廃
- ⚖️ 男女格差の是正
- ⏰ 給付期間が原則5年に短縮
- 👩 中高齢寡婦加算の段階的廃止
- 📉 長期的な受給総額の大幅減少
- 🔄 従来の終身保障から有期制へ
施行日と影響範囲:いつから、どう変わるのか?
この制度改正の施行日は2028年4月1日です。この日以降に配偶者が亡くなった方の遺族から、新制度が適用されます。では、具体的に誰が、どのように影響を受けるのでしょうか。
影響を受けない、または当面は影響がない方
- すでに遺族年金を受給している方:ご安心ください。あなたの受給権に影響はありません。 現行制度がそのまま生涯続きます。
- 2028年4月1日以降に配偶者が亡くなり、その時点であなたが60歳以上の方:こちらも影響はありません。 現行制度と同様に、生涯にわたって支給されます。
- 2028年4月1日の施行時点で40歳以上の女性:ここが重要なポイントです。政府は急激な変化を避けるため、約20年~25年という非常に長い「激変緩和措置」を設けています。有期給付の対象年齢を、まず40歳未満からとし、その後、数年ごとに段階的に引き上げていく計画です。したがって、施行時点で40歳以上(1988年4月1日以前生まれ)の女性は、当面は現行制度のままとなり、すぐに5年有期給付の対象になることはありません。
影響を受ける、または制度の恩恵を受ける方
- 2028年4月1日以降に配偶者が亡くなり、その時点であなたが60歳未満で子もいない方:あなたが今回の改正の主な対象者です。原則5年の有期給付ルールが適用されます。
- これまで受給資格がなかった55歳未満の夫(男性):あなたにとっては大きな改善です。施行日から年齢要件が撤廃され、60歳未満であれば、新たに5年間の有期給付を受けられるようになります。
- 高所得の共働き世帯の方:あなたにとっても改善です。年収要件が撤廃されるため、これまで対象外だった方も新たに5年間の有期給付を受けられるようになります。
👥 対象者 | 📊 影響度 | 📝 詳細・摘要 |
---|---|---|
受給中の方 | すでに遺族年金を影響なし | 現行制度がそのまま適用されます。 🛡️ 既得権が保護されます |
60歳以上の方 | 2028年4月以降に配偶者が亡くなり、その時あなたが影響なし | 現行制度と同様に、生涯にわたって支給されます。 🔄 従来通りの終身保障 |
40歳以上の女性 | 2028年4月の施行時点で当面影響なし | 急激な変化を避けるため、約20年かけて段階的に移行 当面は生涯支給が維持されます。 📅 経過措置により段階的変更 |
養育中の方 | 18歳未満の子を影響が異なる | 📍 子が18歳になるまで:現行通り 📍 その後:5年間は増額された年金が支給 💡 段階的な給付体系 |
60歳未満で子もいない方 | 2028年4月以降に配偶者が亡くなり、その時あなたが影響あり | 📍 今回の主な対象者です 支給期間が原則5年になります。 ⚠️ 最も大きな変更を受ける層 |
55歳未満の夫 | これまで受給資格がなかった良い影響あり | 新たに5年間、遺族年金を受け取れるように なります。 🎉 新規受給機会の創出 |
隠れたセーフティネット:「継続給付」という仕組み
「5年で完全にゼロになるのは、やはり不安だ」という声に応えるため、制度にはもう一つのセーフティネットが用意されています。それが「継続給付」です。
これは、5年間の有期給付が終了した後も、特定の条件を満たす場合には、引き続き遺族厚生年金(増額されたもの)が支給されるという仕組みです。条件は以下の通りです。
- 障害状態にある:障害年金を受給しているなど、公的に障害状態が認定されている場合。
- 収入が著しく低い:所得が一定基準を下回る場合。単身者の場合、年間の就労収入が約122万円~132万円以下であれば全額が継続して支給され、収入が増えるにつれて段階的に減額されます。
この継続給付の存在は重要ですが、その性質を理解する必要があります。これは、旧制度のような「加入に基づく権利」ではなく、「資力調査に基づく扶助」です。
つまり、「困っている」ことを証明しなければ受けられない、社会扶助的なセーフティネットへと、年金の性格が変質することを意味しています。
未来への処方箋:今日からできる3つのアクション
制度が変わる以上、私たちはただ待っているわけにはいきません。今回の改正は、国が私たちに「自分の将来は、自分で守る意識をより強く持ってください」というメッセージを送っているのに等しいのです。では、具体的に何をすべきでしょうか。
1. 「ねんきんネット」で家計の健康診断を!
まずは現状把握から。年に一度の「ねんきん定期便」も大切ですが、より詳細で最新の情報をいつでも確認できる「ねんきんネット」への登録を強く推奨します。
- 夫婦で登録し、情報を共有:お互いの「年金見込額試算」を開き、「あなたのこれまでの加入実績」や「将来の年金見込額」を確認しましょう。
- 遺族年金額をシミュレーション:「かんたん試算」機能を使えば、万が一の際の遺族年金額も概算できます。現状を知ることが、全ての対策のスタートラインです。
2. 国の非課税制度をフル活用し、自分年金を作る!
公的年金が「生活の全てを支える」ものから「基礎を支える」ものへと変わる以上、自助努力による資産形成はもはや必須です。政府もそれを後押しするため、強力な税優遇制度を用意しています。
- NISA(少額投資非課税制度):2024年から新制度が始まり、非課税枠が大幅に拡大しました。得られた利益に税金がかからない、非常に有利な制度です。まずは少額からでも「つみたて投資枠」でインデックスファンドなどを積み立てることから始めましょう。
- iDeCo(個人型確定拠出年金):掛け金が全額所得控除になり、運用益も非課税、受け取る時も控除があるという、税制優遇の塊のような制度です。60歳まで引き出せないという制約はありますが、確実に老後資金を作るための強力なツールです。
これらの制度を夫婦それぞれが満額利用するだけでも、将来の安心感は大きく変わります。

3.健康とキャリアでリスクに備える!
結局のところ、最大の資産は自分自身の「健康」と「稼ぐ力」です。
- 健康管理の徹底:夫婦ともに健康で、一日でも長く働き続けられることが、最大のリスクヘッジです。定期的な健康診断やバランスの取れた食事、適度な運動を、将来への投資と位置づけましょう。
- キャリアプランの共有と更新:夫婦間で、お互いのキャリアについて定期的に話し合う機会を持ちましょう。「どちらかがキャリアを中断する場合、どのように復帰を支援するか」「時代の変化に合わせてどんなスキルを身につけるか」など、具体的な対話が重要です。リスキリング(学び直し)や資格取得も、変化の激しい時代を生き抜くための有効な手段となります。
【まとめ】
今回の遺族年金改正は、国に頼る「世帯単位の扶養」から「個人の経済的自立」を基本とする新しい時代への歴史的な転換点です。
記事で解説した通り、2028年4月から、子のいない60歳未満の方への支給は原則5年間となります。その代わり、5年間の給付額は増え、年収制限の撤廃で男性なども対象になる一方、「中高齢寡婦加算」は廃止されるなど、大きな変化が訪れます。なお、すでに受給中の方や60歳以上で配偶者を亡くした方は影響を受けません。
この改革は、私たち一人ひとりへの「自分の人生は自分で設計しなさい」というメッセージです。5年間の手厚い給付は、あくまで自立への準備期間。変化を正しく理解し、計画的な資産形成など、が、この新しい時代を生き抜くための最も賢明な選択と言えるでしょう。

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