平野啓一郎『富士山』読後レビュー 運命と偶然が交錯する5つの物語 

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こんにちは。今回は平野啓一郎さんの新刊『富士山』を紹介したいと思います。2024年10月17日に出たばかりの最新作です。 

この本、5つの短編が入っているんですが、どの話も「人生って、ちょっとしたことで変わるんだな」って感じさせてくれます。ふと立ち止まって「もし、あの時こうしていたら…」って考えたくなる、そんな不思議な魅力がある作品なんです。 

例えば、マッチングアプリでの出会いだったり、何気ない大腸検査の話、殺人計画を思いとどまる場面、子供の頃のたった一言、次々と連鎖していくストレスなど…。日常のちょっとした出来事が、実はすごく大きな意味を持っているって気づかされます。 

また、平野さんの文章が本当に美しくて、物語にどんどん引き込まれていきます。読んでいるうちに、自分の人生も振り返りたくなってきたりして、「あの時の選択は正しかったのかな」とか「これからの人生をどう生きていこう」とか、いろんなことを考えさせられる一冊なんです。 

僕も読んでいて、すごく心が揺さぶられました。みなさんもきっと新しい発見があるはずですよ。 

僕はこの本をAudibleで聴きました。ちょっとした時間や作業しながらのながら聴きでも読書できちゃうとっても便利なAudibleの聴く読書。忙しくてなかなか読書する時間がない人におすすめです。

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短編5作品それぞれの物語 

「富士山」 

新幹線のある出来事を通して、人との「出会い」や「理解」について考えさせられる物語です。 

婚活アプリで出会った加奈さん(40歳近く)と津山さんは、こだまに乗って東京から浜松へ向かっています。加奈さんにとってこの旅は、津山さんを結婚相手として見極める大切な機会でした。 

ところが、途中の駅で思わぬ出来事が起きます。反対側を走るこだまの中で、一人の少女がSOSサインを出していたのです。それを見つけた加奈さんはすぐに立ち上がって助けようとしましたが、津山さんは戸惑って動けずにいました。 

この時の対応の違いで、二人の間に溝ができてしまいます。でも、その後加奈さんはニュースを通じて、津山さんの意外な姿を知ることになるのです。 

この作品は私たちに問いかけます。「たった一つの出来事だけで、その人を判断してもいいのだろうか」と。相手のことを理解するって、本当は簡単なことじゃないのかもしれません。 

面白いのは、主人公が富士山の見える新幹線の席が人気だということを知らなかったという設定です。これは、私たちの日常に潜む「気づき」や「発見」を表現しているのでしょう。 

作者の平野さんは、この短編を通して「今の人生」について考えるきっかけをくれます。もし、あの時違う選択をしていたら…。そんな「あり得たかもしれない人生」に思いを巡らせながら、今の自分の人生の意味を探る物語なのです。 

「息吹」 

かき氷を食べた記憶」というタイトルにふさわしい、不思議な物語です。 

ある日、齋藤息吹さんはかき氷を食べに行きました。でも、お店は満席。しかたなく近くのマクドナルドに入ることに。そこで偶然、誰かの「大腸内視鏡検査」の話が耳に入ってきたんです。 

その会話がきっかけで「自分も検査を受けてみようかな」と思い立った息吹さん。そして、その決断が思わぬ事実を明らかにします。なんと、初期の大腸がんが見つかったのです。 

幸い早期発見だったため、手術も無事に成功。でも、ここからが不思議なんです。息吹さんの記憶の中には、はっきりとあの日「かき氷を食べた」という出来事が残っているんです。でも、実際にはマクドナルドに入ったはずなのに…。 

この作品には、二つの深いメッセージが込められています。 

一つは「人生って、ほんの些細なことで大きく変わるんだな」ということ。もしあの日、かき氷屋が空いていたら、息吹さんの大腸がんは見つからなかったかもしれません。 

もう一つは「私たちの記憶って、本当に正しいのかな?」という問いかけ。息吹さんは確かにかき氷を食べた記憶があるのに、実際にはマクドナルドに入ったはず。じゃあ、どちらが本当の出来事だったんでしょう? 

まるでパラレルワールドのような展開に、読んでいる私たちも考えさせられます。「もし、あの時違う選択をしていたら…」。そんな風に、自分の人生の選択についても振り返ってしまう、不思議な魅力を持った物語なんです。 

「鏡と自画像」 

「自画像との対話」とでも呼べそうな、心の再生の物語です。 

主人公の「僕」は、虐待を受けて育った孤独な青年。人との関係を築けないまま、生きる意味さえ見いだせない日々を送っていました。そんな彼が考えついた究極の選択は、無差別殺人を起こして死刑になることでした。 

犯行の場所として選んだのは上野の西洋美術館。でも、そこで目にしたドガの自画像が、彼の心に思わぬ変化をもたらします。 

その絵を見た瞬間、高校時代の記憶が蘇ってきたのです。美術室に飾ってあったドガの自画像のポスター。当時の「僕」は美術教師に「なぜ画家は真正面を向いて自画像を描かないんですか?」と質問していました。 

それから「僕」は、鏡に映る自分との対話を始めます。これは、他人とコミュニケーションを取るための、彼なりの練習だったのかもしれません。ところがある日、兄がそのポスターを破ってしまい、せっかくの試みは中断してしまいます。 

西洋美術館でドガの自画像に再会した「僕」は、結局その日の計画を実行できませんでした。代わりに、自画像の絵葉書を買って帰ります。そして再び、鏡に向かって自分と対話する日々が始まったのです。今度は、バラバラになっていた自分の心を、少しずつ一つにまとめていく作業でした。 

物語の最後で「僕」は語ります。「今では楽しく話せる人が3人もいるんです」と。長い時間をかけて、ようやく人とのつながりを取り戻すことができたのですね。 

この作品は、深く傷ついた心が少しずつ癒されていく過程を、繊細に描いています。鏡に映る自分、そして画家の自画像。それらと向き合うことで、「僕」は失っていた自分を取り戻し、他者との関係も築けるようになっていったのです。 

「手先が器用」 

「手先が器用」と祖母にほめられた少女が、やがて母親となり、その言葉がどのように影響したのかを振り返る物語です。冷淡な母親との関係の中で、その一言がどれほど重要だったかを考えることで、家族との絆や自己評価について深く掘り下げています。 

「ストレス・リレー」 

「ストレスの連鎖」を描いた、現代的な物語です。 

主人公の小島和久さん(44歳)は、シアトルから日本への帰国便に乗ろうとしていました。そこで思わぬトラブルが。列に並んでいた時、白人女性に横入りされてしまったのです。 

「なんだよ、あれ…」。小島さんの心に、モヤモヤとしたストレスがたまっていきます。長時間のフライトでぐったりした状態で羽田空港に着いた頃には、そのイライラはピークに。 

面白いことに、この物語では小島さんのストレスが、まるでバトンのように次々と他の人に受け渡されていくんです。羽田から始まり、ついには京都にまで…。最後にそのストレスを受け取ったのは、中国人留学生のルーシーさんでした。 

でも、ルーシーさんは違いました。知らず知らずのうちに、彼女はこの負の連鎖を断ち切ってしまうんです。作中では彼女のことを「英雄」と呼んでいますが、本人はそんなこと、全く気づいていません。 

この作品には、コロナ禍を経験した私たちへのメッセージが込められているようです。誰もが何かしらのストレスを抱えている今の時代。でも、その気持ちを誰かにぶつけてしまうと、また新しいストレスが生まれてしまう。 

そんな中で大切なのは「心の換気」なのかもしれません。誰かのストレスを受け止めつつも、それを新たな形に変えていく。ルーシーさんのように、知らないうちにその連鎖を断ち切れる人が、今の社会には必要なんじゃないでしょうか。 

人と人とのつながりの中で、ストレスはどう伝わり、どうすれば和らげられるのか。そんなことを考えさせられる物語です。 

この本を楽しむ6つのポイント 

この本を楽しむ6つのポイントでご紹介します! 

「もし、あの時…」という物語の魅力

人生って、ほんの些細なきっかけで大きく変わることがありますよね。この本は、そんな「偶然」と「選択」の面白さを、実感を持って描いています。読んでいると、自分の人生の選択も振り返ってしまいます。 

リアルな人間関係

婚活アプリでの出会いなど、まさに今の時代の人間関係が描かれています。人と人とのつながりの難しさや大切さが、とても自然な形で表現されているんです。 

心に染み入る文章

風景や登場人物の気持ちが、とても丁寧に描かれています。読んでいると、まるで自分もその場にいるような感覚になれますよ。 

様々な視点からの物語

5つの短編それぞれが、違う角度から人生を見つめています。読み進めるうちに、新しい発見や気づきがたくさん得られるはずです。 

コロナ時代を生きる私たちの姿

今の時代特有の不安や寂しさも描かれています。「あぁ、分かるなぁ」と、思わずうなずいてしまう場面も。

考えさせられるテーマ

犯罪や死刑など、重いテーマも含まれています。でも、それらは決して重たすぎる印象にはならず、自然と物語に溶け込んでいます。

この本から得る3つの気づき 

偶然の力

些細な出来事が人生を大きく変える可能性を認識し、予期せぬチャンスにも柔軟に対応する大切さが分かります。

人間関係の複雑さ

身近な人物の本当の姿を把握することの難しさを感じ、相手の立場に立って理解を深める重要性が分かります。 

人生の意味

登場人物たちが直面する存在的な問いに共感し、自分の生き方について考えるきっかけになります。 

おわりに  

平野啓一郎さんの最新作『富士山』は、人生における偶然や運命についての深い洞察がたくさん詰まっています。 

5つの短編それぞれが、些細な出来事がいかに大きな影響を及ぼすかを描いています。登場人物たちの選択や行動が、まさに彼らの人生を一変させるのです。読んでいると、自分の生き方を振り返らずにはいられません。 

特に印象的だったのは、人間関係の複雑さを描いた作品ですね。マッチングアプリでの出会いや、ストレスの連鎖など、現代社会特有の人間関係の難しさが丁寧に描かれています。登場人物の心情も繊細に描かれているので、共感を覚えます。 

さらに、一部の短編では犯罪や死刑といった重大なテーマにも踏み込んでいて、読者に深い思考を促します。平野さんの鋭い洞察力に脱帽です。 

全体としてこの作品は、私たち現代人の生き方について多くの気づきを与えてくれる素晴らしい作品だと思います。偶然と選択の微妙な関係性を感じ取ることができ、人生観を問い直す良い機会になるでしょう。ぜひ手に取って、作品の世界に浸ってみてください。 

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